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【映画評】クラウドアトラス

『Cloud Atlas(2012年)/独, 米, 香港, シンガポール/カラー /172分/監督;Tom Tykwer, Andy Wachowski, Lana Wachowski』

 大作です。ほとんどの人が2回以上見ないと理解できないほどの大作。

一回目見た時はあまりの唐突な場面変換が起こりすぎて訳がわからないと思います。

特にどういう構成で話が進んでいるか理解するまでの前半は。この映画の難所はここ(笑)

時間を追うごとに次第に理解できるようになっていきますが、この構成を理解できるまで我慢できるかどうかが鍵です。

 ただ理解できた時の圧倒感やすっきり感は他の映画とはけた違い。本当にスケールの大きな大きい話。

ここからはネタバレになります。

 クラウドアトラスをネタバレなしで書いていくのは不可能なので、ネタバレもちょっと段階的に行います。

クラウドアトラスを予備知識なしで0から挑みたい人はここでストップ。

僕と同じように1回見ただけではポカン。2回目見てようやく凄さに気付くというルートを進んでください。

でもこれが一番お薦めの見方。映画館で見た人はみんなこれ。

 そして、気にはなるけど約3時間もある映画をそんなポンポンと2回も見れるか!!!!!1回で理解できるように大まかな流れだけでも知りたいという人は、僕の指示があるところまで読み進めてください(笑)

ただお薦めは断然知識0で見ることです。

 はたまた、もう全然見る気もないし、自分を暇人やと思うな!!!!という人はそのままブログの最後までどうぞ(笑)

 どちらにせよ最初に言っておきますが、この映画は「これぞ映画という娯楽の醍醐味」というものを見せてくれます。俳優の演技、話の内容、謎解き、編集・・映画の魔法があります。

作品によっちゃ「漫画で見たほうがおもしろそう」とか「小説で見たほうが想像できていい」なんてものもありますが、これは「映画らしい映画」です。

 原作は小説ですが、映画として見るのが一番だと思います。

最近は製作費を超費やした結果が爆弾バンバン大合戦ドンドンだけで、見た後に何も残らない映画なんてのもありますが、これはそういったお金を大量に使った映画の中でも少し違うものを見せてくれます。

では行きます。

ネタバレ第一段階

まず簡単に言うとこの映画は6つの短編が集まった話です。

1、1849年:南太平洋、黒人奴隷売買を任されたアメリカ人弁護士は出向先で黒人が虐待されている場面に出くわし、良心の葛藤に悩む。そしてサンフランシスコへ帰る道中、弁護士は病にかかり・・。

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2、1936年:英国、若き作曲家志望の青年は父に勘当された後、天才作曲家の下で筆記者として働くことに。青年はある日夢の中で聞いた最高傑作を完成させようと日々もがき苦しむ。それは後の世で知る人ぞ知る名曲「クラウドアトラス六重奏」だった・・。

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3、1973年:カリフォルニア、女性ジャーナリストがとあるリークにより大企業の汚職を知ることになる。それを企業内のある男と協力し告発しようとするが、企業に雇われた殺し屋に追われることに・・。

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4、2012年:英国、とある編集者の男。ひょんなことから巨万の富を得た彼だが肉親からの裏切りに会い、老人介護施設に監禁されてしまう。仲間と共に脱走を企てるが・・。

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5、2144年:ネオソウル、荒廃した前時代の都市の上にそびえ立つ近代的超高層ビル群。クローン少女ソンミは人間の為に作られたレストランで機械の様に働いていた。しかしその過程でクローンとしては目覚めてはいけない「人間としての自我」に目覚め、やがてとある男と共に革命家への道を歩んでいくことになる・・。

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6、5から年月もわからないほど時間が経った遥か未来のハワイ(と呼ばれた地域)。文明は完全に滅び去り、ソンミがイエスキリストのように崇拝の対象にもなっている弱肉強食の世界。そしてその世界で生きるために常に逃げ続けた人生を歩んでいた羊飼いの男はある日、文明が滅びる前に宇宙に脱出したコミュニティーの女性と出会う。そして共に人類、はたまた地球をも救う旅に出ることになる・・。

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ってな感じです。書くだけでも大変(笑)

 この一見なんの繋がりもないバラバラの時代のバラバラの話が、更にバラバラにカットされ、くっ付けられて進むので大混乱になるのです。逆を言えばこの大まかな話を知っていれば比較的理解しやすい内容ともいえます。

 さっき言った1回で理解したいという人はここでストップ。

このストーリーの知識だけでも大まかに頭に入っていれば多少理解しやすくなります。

以下からはさらにネタバレ。もっと踏み込んでいきます。

「輪廻点綴/カルマ」  

 どの時代の主要人物の俳優(トムハンクス、ハルベリー、ペドゥナ等)は変わりません。

この写真を見ればわかりやすいです。

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 なぜ一人で色んな人物をこなすかというと、それは同じ人物の生まれ変わりをわかり易く表現するためです。

 例えば最初のアメリカ人弁護士夫婦はその時代で人生を全うした後、生まれ変わり未来のネオソウルでまた恋人同士になったり、大企業の汚職事件の時代で惹かれあった男女は生まれ変わって文明崩壊後の世界で結ばれるといった感じです。

 よって、それぞれの物語は全然関係ないように見えますし、生まれ変わった本人も前世の記憶がもちろんないのでバラバラですが、実は少しずつ関係があります。

 そして人だけでなくそれぞれの人物の行動や物も間接的に繋がっていきます。

19世紀のアメリカ人弁護士が航海している時につけた航海日誌を30年代の作曲家が読み、その作曲家が作った曲を70年代のジャーナリストが聞き、そのジャーナリストが暴いた事件を2012年の作家が本にするといった感じです。

 この輪廻転生がテーマの一つになっている中で自分が好感を持てたのは、映画の中では前世でやった徳の高いことや悪事によって、来世での生まれ変わりが左右されることはないということです。

たとえ前世で人殺しでも次の来世では何かを成し遂げる偉人だったりします。ただ人は生まれ変わっていき、その時代を作り、長く続く歴史を紡いでいくということです。輪廻転生で中々突飛なことを扱っているので、ここでこういう設定にしてくれているのは妙に現実味があって違和感がありませんでした。

計算されつくした個々のエピソード  

 さっき言ったように映画の中で個々のエピソードは時系列もバラバラに唐突に場面が変わって進んでいきます。一見見ただけではなんとなく「これはこういう話か」と思うくらいですが、2回目見るときはその各々エピソードの完成率の高さ、一見適当にバラバラに区切られた話と思っていた編集が全て巧妙に計算しつくされた高いレベルでの編集だということに気づくでしょう。

場面の区切り方、次にどの時代の話を持ってくるか。

やはりウォシャウスキー。ただでは転びません(笑)

そして簡単に計算すると180分の尺で6つの話なので、1話30分のショートフィルムを見るようなもの。

話の内容もサスペンスからコメディ、SFといろいろあるので俳優の演技も相まって見応えもバッチリ。

多分バラバラに繋がっている話を編集し直して、一本ごとにまとめて見ても十分見れるほどの内容でもあります。

 それにこれだけ詰め込んでいても最後はうまくまとまっているので本当に凄いの一言。

ちなみに楽しみ方の一つとして生まれ変わっていく役者を探すのも楽しいです。「え!?これがヒューグラント!?」「あれあの人やったん!?」というのは必ずあると思います。それほどに特殊メイクも凄いです。

やはりステレオタイプな扱いを受けるアジア人  

 後半に重要な地位を占めてくるネオソウル時代。これまでこういう映画でアジアが舞台になるとしたら東京が多かったようにも思えますが今回は韓国です。

これがなぜかという所に自分としては3つの理由があると思います。

1つ目は東京が飽きられたから。

 これまで東京が舞台の話はたくさんありました。なので単純にマンネリ化を避けるためです。アニメや漫画も浸透してきている今の時代で東京だと安直で目新しさが無いのだと思います。

それでも発展した近未来の時代設定がアジアっていうのもなんか興味深いところではありますが。

2つ目は欧米の女優を使い辛かったから。

 ネオソウルの話はこの話で一番ショッキングな内容と言ってもいいです。

なので見知っている欧米の俳優を使うには抵抗があり尚且つ見ている側も嫌な気持ちをする可能性があります。そしてこれは3つ目の理由にもつながる事ですが、クローン人間として従順に人間に仕える様は、女性の地位がアジアより高く、感情表現が豊かな欧米人が演じるにはやはり違和感があったんではないでしょうか。

3つ目は韓国が整形大国として認知されているということ。

 この映画が製作されていたころは世界的にKPOPが流行った時でもあります。

その時の評判の中には「みんな顔が同じに見える」というものもありました。それの影響があったかは定かではありませんがネオソウルでのクローン人間の描かれ方はそれぞれ多少は違ってもほとんど顔は同じように描かれています。

 またそういうことを踏まえて、欧米の人の中には未だにアジア人女性の中に「奥ゆかしくミステリアスで純粋そう」というステレオタイプのようなものが存在していると考えている人もいます(実際にそういう人もいますが)。なので韓国人女優はたくさんいますが選ばれたのは顔が整ったモデルのような女優ではなく、容姿にも幼さの残るペドゥナだった・・・・のではないかと思います。

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 それにしてもハリウッド映画の中のアジア人っていつまで経っても昔のステレオタイプみたいな描かれ方しますね。今回のクラウドアトラスの中の韓国人は目を小さくして吊り上げたような描かれ方。違う映画の日本人は奇抜なファッションを身にまとったキチガイか忍者みたいな精神の人物。中国人は背が低くギャーギャーわめくうるさい描かれ方。まぁ欧米人の俳優を特殊メイクでアジア人にしなければならない今作では仕方がないことですし、映画全体の完成度から考えればこんなところに文句言ってもあんまり意味はないことですけどね。

まとめ  

 とにかくスケールが大きく見応え十分は作品。

細切れの様に謎解きをしながら見る構成も最後まで飽きさせないし、良いことをしたから来世は良い生まれ変わりという単純な話でもない。ジャンルが多岐にわたる娯楽作品でもありながら真摯にメインテーマを貫こうとしたことも映画を見ながら感じられます。

人間が歴史を紡いでいく様が垣間見られるのではないでしょうか。

映画として3時間は長いですがこの内容を映画という枠組みの中で3時間で見られるなら僕は十分よくまとめきったと称えたいレベル。こうでこそ映画と言える娯楽作品です。

たまにはお金をつぎ込んだ大掛かりな映画も良いです。近年はアクションとこけおどしのようなスカスカな大作映画も多いように思えますが、今作の様にそれなりに思想もありメッセージもある大作映画もあります。

難点を上げるとしたらやはり初見では理解しにくいであろう細切れのストーリーと、ネオソウルでの世界の真実は見る人が見たらちょっとトラウマになるかもしれません。

 そんなのへっちゃらという人は是非!!!てかここまで読んでいる人は「俺はこんな映画なんて見ねえ!」って思っていた人のはずなので、そういう人でも一回は見てみてください。結局ブログのどこで読み辞めた人でも見てほしい一作。(笑)

てか映画評は単純に自分の感想ですけど、やっぱり他の人にも見てほしいと思って書いてありますからこのブログに書いてある映画はみんな見てほしいですね(笑)

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