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【映画評】バケモノの子

いや~、細田守監督の作品も宮崎駿作品並みに貫録が付いてきましたね。

というのも皆さん、普段アニメの映画は見に行かなくても、宮崎駿作品って結構見に行ってましたよね?

宮崎作品なら内容はどうであれとりあえず見に行く、はずれはないだろう等等、そういう期待を持って。

しかし宮崎駿が長編アニメを引退して以降、その絶対的王座は空席のままでしたが、

そこに細田守監督が座ることになりそうな予感です。

前作ぐらいからそうでしたが、「オタクだけじゃなく、一般の老若男女をネームバリューだけでアニメ映画を見に、劇場に向かわす」という宮崎パワーを細田守監督も身に着け始めたような気がします。

・・・・が、今作はどうでしょう。

っということでいきましょう!!!バケモノの子!!!!!(ネタバレあり)

【バケモノの子(英題:The Boys and The Beast)/ 2015/ 邦/ カラー/ 119分/ 監督:細田守】

人間界「渋谷」とバケモノ界「渋天街」は、交わることのない二つの世界。ある日、渋谷にいた少年が渋天街のバケモノ・熊徹に出会う。少年は強くなるために渋天街で熊徹の弟子となり、熊徹は少年を九太と命名。ある日、成長して渋谷へ戻った九太は、高校生の楓から新しい世界や価値観を吸収し、生きるべき世界を模索するように。そんな中、両世界を巻き込む事件が起こり……。(シネマトゥデイより抜粋)

安定の細田ワールド  

 とりあえず結論から先に言うと、今までの細田作品が好きなら見て損はないです。

実写と見まがうほどの美麗アニメーション、クスっと笑えるような掛け合いと、目頭が熱くなるようなグッとくる場面、そして心躍るような躍動感、全て入っています。

 テンポよく話も進んでいきますし、その進み具合が気持ちいいというのも健在です。

                ※まさか多々良(大泉洋)に泣かされるなんて(笑)

 そして細田監督お得意のクサいシーン(行動、発言)も今作には今まで以上にテンコ盛りです。

図書館での出会い、一緒にお勉強、壁ドン、美少女なのに学校で浮いてる少女と理解しあっていくというベタ路線。・・・・ここは貶しているんじゃないですよ??(笑)

 この監督の強みっていうのはそういうクサいことをすんなり違和感なく見せれるところにあると思うんです。

サマーウォーズでいうとなつき先輩が自分の祖母の家に来てほしいと頼むところとか、おおかみこどもでは・・・まぁ今作に近いクサい演出がありますよね?そういうのをすんなり見せれるこの手腕は凄いです。

・・・・ただ気持ちよく見れたのは前半まで。

後半からちょっと雲行きが怪しくなってきます。

粗が目立つストーリー展開  

まず完全に詰め込み過ぎです。

母親の死去から始まり、バケモノとの父子関係、修行、宗師継承問題、世界行脚、成長、独り立ち、人間界への帰還、受験、本当の父との関係修復、ライバルの暴走、人間の闇など簡単に思い返すだけでこれだけあります。

その都度感じることは変わり、見ている側もあからさまに考えることが増えていきます。

普通の映画も話が進むにつれて増えるものですが今作は増えすぎ。渋谷に帰ったあたりから「え?まだそれ放り込んでくる??そんなに盛り込まなくても・・・」となります。ここまで詰め込まれると最早父子関係を描いたドラマというよりは、伝記映画に近いようにも見えてきます。

しかし各々のシーンは良くできています。修行シーンは気持ちよく進んでいきますし、構築されていく父子関係に思わずグッと涙が出るシーンもいくつもあります。

 なのに内容が多すぎるが故に、思い返してみるとゴチャゴチャしていて、そのしわ寄せがエンディングに積もっていきます。

この後はネタバレしていくので気になる人は飛ばして、総評を読んでください。

一郎彦  

 詰め込み過ぎたことが原因で、トピックは多いのに、肝心のストーリーに感情移入することがなかなかできませんでした。特に一郎彦。(逆に終始描かれる熊徹には驚くほど感情移入できる。)

 彼は最後、父を愛するが故に、人間の闇に憑りつかれ、禁忌を犯してしまう重要な役どころなのに、それに至るまでの描写が不足しすぎです。

 この物語の総決算を担う相手が一郎彦なのに、幼少期に至っては一言二言喋るだけ。

設定からも九太と同じだけの闇を抱えているはずなのに、説明不足描写不足のまま最後の暴走に向かうので、暴走しても憐みや共感という感情よりも「ボンボンがわがまま放題か!?」「やっつけろ!」「早く片付けろ!」のような単純な善悪描写のほうが強く見えてしまいます。

途中、小説白鯨(※1)を臭わす演出があり、それを知っていれば暴走した過程、鯨になる演出など多少理解できますがそれも後の祭り。白鯨のくだりももう少し説明が言ったような気がします。最初からちゃんと描いていればこういうことにはならなかったと思います。ここをちゃんと描くことができれば物語にグッと厚さを増すことができたのに・・・

そんな不憫な描かれ方をした一郎彦ですが、劇場版にはない描写として「事件後、猪王山の息子として改めてやり直すことが渋天街でも認められた」という設定があります。せめてもの救いです。

父子関係  

今回のメインテーマでもあり、自分が一番モノ申したいところ!!

九太と熊徹は友達でもあり、師弟でもあり、最後にはお互いを親子と認め合うようにもなります。

最後の最後までその描き方は良かったのですが、最後、熊徹は転生して、九太の「胸の中の剣」にまでなって助けようとします。

・・・しかしこれってどうなの?って思いませんか?

 命を賭して九太を助けようという気持ちはわかります。しかし曖昧な描写でしたが、胸の中の剣になった熊徹は「心の支え」というよりは、完全に九太と「融合」したような存在になりました。一応、熊徹が九太の中に入った後も会話はしていましたから、心の支えよりは融合でしょう。

親が息子に何かを残したい、伝えたいと思う心は当然ですが、融合までするのは親のエゴというか過保護に思えます。おおかみこどもで描かれた母親像は「理想的すぎ」などと過保護扱いされるときもありますが、それはいいです。母親だから。母親ってのは過保護なもんです。

でも父子関係を描くときにそこまですると、それは過保護すぎると思うんです。

父親というのは息子からすれば大きな壁であり、手本でもあり、目指すところでもある。だからこそ父親というのはたまに思い出す程度の関係が健全で、でも決して消えない小さな強かで暖かな灯と認識するくらいが丁度いい父子関係に思えます。なので融合までしていつも自分の中にいる父親像というのは父子関係においては過保護以外の何ものでもないと思います。

多分この辺は女性にはわかりにくい所かもしれませんが、男性ならちょっとは感じる部分ではないでしょうか??熊徹が命を賭した決断をしたのに冷たいことを言うようですが、融合にもとれる描写の仕方はしないほうがよかったです。

総評  

 エンディングに難はありましたが、一つ一つの素材や描き方は凄く良いです

その辺はさすがの細田守作品、レベルの高さを見せつけられました。

 詰め込みはしましたが、師弟関係、父子関係が構築されていく様は見ていて気持ちがいいですし、

時折涙もこぼれる所もあります。この夏に見ておいて損はない作品になっています。(このレビュー読んでいて「ほんまかよ!?」って言いたい気持ちはわかりますが、本当ですww)

 また細田守監督はサマーウォーズでその人気を不動のモノにしてしまったが故に、おおかみこどもや今作のように王道路線を期待されるようになってしまいましたが、もともとある細田監督の魅力からいうと、そっちよりも時をかける少女のようなコアな路線で勝負していく方が良いと思います。

・・・・・が、まぁ無理でしょう。能力的にではなく世間的に、環境的に。

 しかしここまで上り詰めたヒットメーカーの細田守監督だからこそ、その王道とコア路線を超えた傑作を作り出してくれるだろうという、期待はせずにはいられない・・・そんな作品でした(笑)

なんか今回のレビュー、物凄くまとめずらかったです(笑)

「良いんだけど惜しい」という曖昧な感想なので許してください(笑)

ただ一言だけ言いたいのは決して駄作ではありません。さっきも言いましたがこの夏に見るべき一作です。

これから家族を持つ人、父、息子の人は絶対に何か感じるところがあるでしょう。それでなくても、現代の家族とはなにか?他人との付き合い方の多様性というところも垣間見れる作品になっているので、今までの細田守作品の中でも随一のメッセージ性があります。

家族関係、母子関係、父子関係と描いて来た細田監督が次に何を描くテーマに期待しつつ、今回はここで終幕。

※1:小説白鯨の中で鯨は復讐の相手、悪の化身、闇、大自然と様々なメタファーの象徴です。白鯨を読んでから、バケモノの子を見ると物語をすんなり受け入れられるかもしれません。


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