認知症
すぐ人のせいにする。自分は悪くない。
キレやすい。そして怒鳴る。
何も言わずほっつき歩く。
会話が成り立たない。
意味わからんもんを集める。
必要なものを捨てる。隠す。
激しい物忘れ。etc.
・・・・これは超自己チューな人ではありません。
認知症になったら出てくる行動のごく一部です。
皆さん認知症についてどういうイメージですか?
身内や近くに認知症の人がいないと「ただ忘れっぽくなる」とか「晩御飯はまだか?」「さっき食べたでしょ!」ってな会話だけ思い浮かぶんじゃないでしょうか?
何でもそうですがこういうことは自分の身に降りかからなければ対岸の火事です。そして自分に何かしらの形で関わりが無ければ知ろうとも思わないことだと思います。ただどんな物でもそういう物は突然やってきます。
うちのおじいちゃんもある日突然認知症になりました。「突然」というと語弊がありますが、「最近じいちゃん忘れっぽいなぁ。・・・まさか!」ということで病院で簡単なテストを受けてみると結果は認知症。そこから始まりました。
最初はよくあるただの物忘れ。そこから次第に全てがごちゃ混ぜになっていきました。
10分前にトイレ行ったのにまたトイレに行く。
トイレを流した後に出てくる水が止まらないと言って誰かを呼ぶ。
寿司にソースをつけて食べる。普通飲まないものも全部飲もうとする(ポン酢・醤油等)
カレーを箸で食べ、付け合せのサラダをスプーンで食べる。
目の前に皿が4つも5つも並ぶとどれから食べていいかわからなくなる。
無駄にティッシュを出す
待つという我慢が出来なくなる。
ゴミ箱に直接痰を吐くことを注意すると自分じゃないとわかりきった嘘をつく。
悪いのは全部おばあちゃんのせい。孫の僕や弟には「いつも塩梅してくれてありがとう」と言いながら俺らよりも断然看病してるおばあちゃんには「お前はなんもせん!ヘラヘラ笑って!!」とか平気で言う。
最初は忘れっぽくてもある出来事を思い出すと芋づる式に他の記憶まで出て来ていたのが、会話も成り立たなくなる。
夜中に突然みんなを叩き起こし、訳のわからないことを言う。おじいちゃんと一緒に寝ているおばあちゃんは毎晩3,4回起こされてます。
等々
これらの僕が体験したイメージで言うとボケるというよりは「どんどん精神年齢が幼くなっていく」って感じです。確かにボケて行きますがそれよりもわかりきった嘘をついて、すぐばれる隠ぺい工作をする。我慢もできなくなり、言うことを聞かなくなる。
ベンジャミンバトンじゃありませんが認知症が進むにつれて行動は子供っぽく幼くなっていきます。
さっき書いた行動はごく一部の物ですが文字で書くと些細なことの様にも見えます。
認知症なんで物事を忘れていくのはしょうがないです。忘れないように食べた物や行動をノートに書いて見てもそれも忘れていきますし、どう頑張っても思い出もごっちゃになってきます。
しかし認知症は精神的な事だけでなく、身体的な部分にまで支障が出てきます。
例えば忘れるということは、怪我をして「肩を動かしちゃだめ」ってな状況になっても動かしますし、「治ってきたからリハビリのために動かさないといけない」ってな状況になっても、動かすことを忘れます。
そしてさらには怪我した部分が「何で怪我したのか」「そもそもなんで痛いのか」ってなことにもなってきます。なので怪我の治りは遅くなり、リハビリも満足にできなくなるので怪我したところを上手く動かせないようにもなってしまいます。
それにうちのおじいちゃんが認知症を患ってから脳梗塞で倒れたときは長期入院できませんでした。
これはお医者さんに拒否されたとかそういうのではなく(厄介者扱いされたのかもしれませんが)入院してもしなくてもどっちにも同じだけのメリットデメリットがあったからです。
例えば入院をした場合、また再発してもすぐ対処できますし、専門家が看病してくれます。しかし夜フラフラと院内を歩き回り、こけてそれが原因で一大事になる場合もあります。検診があっても認知症なので「どこが痛い」「どこが具合悪い」というのを的確に言えないので満足に検診もできません。そして何より入院させてしまうと精神的に弱ってしまい認知症はさらに進んでしまいます。家族が交代で病室に泊まりに行ってもです。そういう病気なんです。
なのでどっちが良いかということになると決めるのは家族です。うちの場合は家での看病を選びました。
看病する側も認知症というものと向き合い受け入れていく必要があります。
最初はど忘れしているだけと思っていたものがだんだんそれじゃ見過ごせないようなことになっていきます。忘れてボケていくにつれ健全だった頃とのギャップに悩むのです。最初に言っておくとこれは看病を続けて受け入れていくしかありません。
うちのおじいちゃんは包丁の街堺でもそこそこ有名な包丁職人でした。一つの事に打ち込み続け、包丁の些細な出来具合の違いにも敏感で、他の職人気質な人達の例に漏れず口数は少ない方でしたが、僕や弟が会いに行くとニコニコと朗らかで優しい人でした。
しかし認知症が進むにつれ、短気になり怒鳴るようになりましたし、さっきも言ったように「子供っぽく」なっていきました。夜中に何回も起こされたり、どう考えても辻褄の合わない理屈と話していくうちにコロコロと変わっていく話の内容で怒鳴られたりと、これが1回や2回ならまだしも毎日のようにされると物凄くこちらも精神的にキます。この健全だった頃とのギャップに最初は家族も疲弊し苛立ちも貯まっていきました。まずこれを受け入れるので第一段階。今思うとこの頃が一番辛かったです。
そしてこれに看病する側が慣れてくると次は普通にわかることが分からなくなる段階です。さっき書いたカレーを箸で食べるとかゴミ箱に直接唾を吐くとか謎の繰り返し行動をするとかです。この段階になるとこちらの予想外の事をしだすので、ある意味こちらはまた振出しに戻り、これにも慣れて対処できるようにしないといけません。今のうちの状況はここです。慣れてきてはいますが時たましんどい時もあります。多分ここから更に家族もわからなくなり、まともに生活できないようになっていくのでしょう。
しかし悪いことばっかりではありません。急に面白いこともします。今日も笑ってしまうようなことがありました。食後に熱いお茶を飲んでいるときに「熱いお茶やから注意せなあかんで!」と5回くらい繰り返し言ったのにも関わらず、渡した瞬間飲み始め「あっつ!めっちゃ熱いやないか」「・・・2秒前に言ったやん」「言ったか??」「言ったよ。5回も!!!!!」なんていうコントみたいな一幕があり笑ってしまったりとかw
ただボケてもう全部訳が分からなくなっていてもおじいちゃんは自分の認知症について悩んでいると思います。もう会話も成り立たなくなって、おじいちゃんの本当の気持ちなんてこともわからなくなってきてますが、「ボケてるからちゃんと言ってくれ」と言ってきたり、良いことと悪いことの判断が出来なくなっても、叱られるとちゃんとしょぼくれます。結局そんなことも数分後には忘れてしまいますが、おじいちゃんは自分の意志で認知症と戦っていると感じます。
認知症に対応する方法としては「受け入れ」と「諦め」が重要だと思います。まずはそうなっていくということを受け入れることが重要。そしてそれについて普通ならできるのにというようなことを諦めるということです。諦めると言っても悪いことをすれば叱りますし、認知症が進むスピードが速くならないように頭を使うようにしたり、ボケてるからと言って会話をしなくなるんじゃなくて、辻褄が合わなくても会話をするようにするとかです。
正直な話、施設に預けることは無しだとは言えません。酷いとか無慈悲だと思う人もいるとかもしれませんが、場合によっては認知症患者の行動に心が折られる人がいてもおかしくないです。
それほどまでに大変でこちら側にも変化を要求します。
うちが預けずに済んでいるのはたまたま家族の心と環境がそれに合ったということ「だけ」だと思います。よっぽど複雑な家庭環境ならまだしも誰もが育ての親を施設に預けたいとは思わないと思います。自分で面倒をみようとするはずです。しかし些細な違いや認知症のわずかな症状の違いで決定的な違いが生まれて預けるか預けないかの差になってくるのではないでしょうか?だから施設に預けるのはダメだとは言えません。
そして身内の中に定年退職をした人や夫婦のどちらかが先立ってしまったりした人がいる場合は注意してください。そういう時に一気に老いは進み認知症が発症します。うちのおじいちゃんも仕事を辞め工場を売り払ってから比較的早く発症しました。だからおじいちゃんおばあちゃんともっと話してみてください。仮に認知症が突然発症し病状が進むと昔の思い出話や普通の会話も出来なくなってきます。そうなると必ず後悔します。
僕の場合、僕から学校の事や友達の話はしてもおじいちゃんの話をあまり率先して聞いたりはしていませんでした。しかし認知症になってから頭のトレーニングがてらおじいちゃんの昔の学生時代の話やおばあちゃんとのなりそめ、包丁を作る姿勢などを聞いて、知らないおじいちゃんがたくさん見えて嬉しかったですし楽しかったです。今になって思うともっと早くこうしていればよかったと思うこともあれば、今疑問に思うことがあってももう多分満足に答えもらえないと思うと残念で後悔している部分もあります。
なので今当たり前にいるおじいちゃんおばあちゃん、はたまた家族を見る目を少しだけ改めてください。改めてっていうと今が悪いように聞こえますが(笑)
こういうことを知って会話するのと知らないで会話するのでは多分気持ちも内容も変わってくると思います。いつか身内がそうなった時に後悔しないように、心が折れてしまわないように少しだけ認知症について知っておいてください。