【映画評】インターステラー
「今外に出たら、外の世界は何十年後とかになってるんちゃん??」
そんな感想が鑑賞後、席を立つときに思わず出てしまう映画でした。
インターステラー。
久しぶりに、というか数年ぶりに「!!」という感想が合う映画(笑)
スケール感、設定、演出、ほとんどが上出来。見終わった後、細かいことがわからなくても、圧倒されること間違いなし!
今の所、2014年、劇場で見た映画で何が一番凄かった?と聞かれたら、まずこの映画を挙げるでしょう。それくらいに鑑賞後は呆気にとられます。呆気にとられるというのは「ラスト10分の衝撃」とか「結末が理解不能すぎて」とかそういう安っぽい物ではありません。インターステラーが持つ壮大さにです。
っということでこれからインターステラーを見に行こうかと考えている人のハードルをこれ上げ過ぎるのもあれなんで、早速、最近多かった「紹介ブログ」ではなく、久しぶりの「映画評」行ってみましょう。
【インターステラー(原題:Inter Stellar)/ 2014/ 米/ カラー/ 169分/ 監督:Christopher Nolan】
近未来、世界規模の食糧難と環境変化によって人類の滅亡が間近に迫った地球。その地球を救う為のあるミッションの遂行者に元エンジニアで飛行士のクーパー(マシュー・マクノヒー)が抜擢される。そのミッションとは、宇宙で新たに発見された未開地へ旅立つというものだった。地球に残さねばならない家族と人類滅亡の回避、二つの間で葛藤する男。悩み抜いた果てに、彼は家族に帰還を約束し、前人未到の新天地を目指すことを決意して宇宙船へと乗り込む。(シネマトゥデイ抜粋)
初めに
この映画は二通りの見方が出来ます。
最先端科学理論を用いた本格SF映画としても見ることができますし、日本のCMの様に時を超えて紡がれる家族愛を描いた映画としても見ることができます。
しかし注意したいのは、この映画は必ず映画館で見ないといけないという事です。というのもこのインターステラー、劇場で見ないといけない理由がいくつかあります。
まずこの作品は過去の偉大なSF映画をたくさんオマージュしています。
監督自身、脚本を書く上で影響を受けた作品に「未知との遭遇」「ライトスタッフ」、そして「2001年宇宙の旅」を挙げています。2001年宇宙の旅はインターステラーと同じく、当時の最先端科学理論を用いて作られた映画で当時世界的大ヒットを記録し今でも名作と語り継がれる作品。
インターステラーを作る上で監督自身「2001年宇宙の旅を劇場で見た時の感動をみんなにも味わってほしい」という意思の上でこの映画を作っています。なのでインターステラーは2001年宇宙の旅から影響を受けたようなシーンやストーリー展開が目立ちます。ということは当時の映像っぽく作っている部分もあるという事で、もしこれを家のTVで見るとチープに見えてしまう可能性があります。
またこの壮大な宇宙の旅は映画館での空気が震えるほどの大音響で見てこそのもの。この映画の壮大さと感動のストーリーはあの音響もあっての物なんです。
なのでそれらを確実に全部カバーするのが映画館という空間です。飛行機の中の小さな画面と聴診器みたいなイヤフォンで見るなんてもっての外、家でブルーレイで見ても魅力は大幅減です。レンタルを待とうなどと思わずに、是非映画館で見てください!出来るならIMAXで。
※これより先、大きなネタバレはしませんが多少します。本気で楽しみにしてる人は事前情報は無しで飛び込んでほしいので、これより先は鑑賞後に読むことをお勧めします。
科学的設定。
まずはこのクリストファーノーランという人物。
ご存知の方も多いとは思いますが、過去作のメメント、インセプションを見たら分かるとおり、ぶっ飛んだ独自の舞台設定を作り、それを練りに練り上げて壮大で小難しい物を作りあげることが得意な人物。
記憶が10分しか持たない復讐犯とか夢の中の夢の中の夢とか、とにかくまぁ頭の使う設定を作り出します。
そしてそれはこのインターステラーでも同じです。
今回は宇宙の話、宇宙科学について小難しい設定。まぁ設定というか理論なんですけど、まずはちょっとそこを最初に解説していきましょう。俺もあんまり理解してないですw
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相対性理論:アインシュタインが唱えた理論で、物体が光速に近づけば近づくほど、周りにある遅く動いている物体からそれを見ると光速で動いている物体の時間の流れのほうが遅くなっているという理論。例えば光速で飛ぶ宇宙船の中にいる人物と地球にいる人物が同じ年でも、50年後には実際には多大な時間差が生じており、地球にいる人物が普通に老人になってるのに対し、宇宙船にいる人物はまだ若いままという現象が起こる。
ワームホール:次空間のとある2点を繋ぐ穴で、そこをくぐると長距離を一瞬で移動できるというもの。ちなみにどこでもドアや通り抜けフープもこの理論らしい。
ブラックホール:超高密度の質量をもち、強い重量で光さえも吸い込んでしまう。吸い込まれれば吸い込まれるほど、時間、光、時空の概念が無くなりひたすら引き伸ばされ圧縮され続けると言われている。
次元の干渉:1次元のものは2次元に干渉できないし2次元のものは3次元に干渉できない。例えば2次元である漫画のキャラクターに意思があったとして、3次元の世界にいる読者(我々)に触れようと思っても触れられない。それと同じく3次元の世界にいる我々が4次元にいる何かに干渉することはできない。
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この4つの理論と現象はインターステラーを見る上で欠かせない要素になっています。
特に相対性理論を用いた「時間差」の演出はこの映画の肝。
そして今回もぶっ飛び具合は健在です。例えば「この惑星での1時間は地球での7年」とか「5次元の先は家の娘の部屋だった」とかさすがにイキすぎじゃないかというものはあるものの、そこをわかったように納得させてくれる、それがクリストファーノーラン作品ですw
また今回この話を作る上で監督は制作総指揮にキップ・ソーンという最先端理論物理学の権威を招いて設定と視覚効果を作っています。なので一つ一つの意見、理論、現象と結果において最先端の科学的根拠があります。
なので皆さん、ブラックホールやワームホールを「線の抜けた湯船のお湯」みたいな形を想像していませんでしたか??実は最先端の科学ではそういう物ではありません。どんなものか、それは劇場で見てくださいwそしてさっき書いたようなぶっ飛んだことも実はあり得ることなのかもしれません。なので目まぐるしく出てくる宇宙描写を見ているだけでも目新しく、新鮮な映像を楽しめるでしょう。
遂に手に入れた「無敵のノーラン」
上記の様にぶっ飛んだな舞台設定と緻密な話づくりはこれまでのノーラン作品同様健在です。
しかし自分の中では最近公開されたダークナイトシリーズ、インセプションと続いたノーラン作品と今作とでは大きく変わったことがあります。それはインターステラーでようやくクリストファーノーランは血の通った映画、「人」を描いた映画を作ったという事です。
というのもこれまでのノーラン作品では、例えばダークナイトシリーズは、スーパーヒーローが故の苦悩をリアルに描いたことで人気を博しましたが、なにか堅く、常人離れした考え方や決断を下すキャラが多かったので、どこか作品全体に無機質な雰囲気が漂っていたように思います。
話の作り方、持って行き方、演出の仕方、これらに関して、ノーランは傑作と呼べるものを作っていたのに、肝心の「人間を描く」という部分が致命的に足らなかったのです。だからこれまでのノーラン作品は見た後、「すげー!」という感想はあれど「感動した」とか「心が揺さぶられた」という感想がなかなかなかったのです。
これがアメリカ人という気質がもたらすものなのか、ノーラン監督自身の性格から来るものなのかはわかりませんが、止まることのないポジティブ思考がもたらしたことではないかと思います。「永遠の成長を疑わず、常に前進し、努力し、進んでいけばなんとなる」。そういう部分はインターステラーの中でも見受けられます。食べ物が無くなれば新天地に行けばいいという欧米的な考え。日本人なら多分食べ物が無くなれば、節約して食べる量を減らそうと考えるのではないでしょうか。今までのノーラン作品ならそのギャップが如実過ぎて、スゲーとは思えど感動はしなかったように思います。
しかし今回は全体を通して人間味のある、近寄りやすい、共感しやすいキャラクターとストーリーがあります。だから突飛な設定の中にいても主人公の苦悩に素直に寄り添えますし、共感できて感動します。実際、家族からのビデオレターのシーン、病院のシーンでは感動して泣けます。今までのノーラン作品にはなかった感動です。まさかノーラン作品に泣かされるとは思いもしませんでしたw
これまで設定、展開、演出が出来てたのに、唯一「血の通った要素」がなかったノーラン監督。しかし今回それをも手に入れてしまった。・・・・・もう完璧じゃないですか??(笑)
僕がこの作品を凄いという理由はここにあります。
元凶
今回の旅の元凶である世界の荒廃化、特に宇宙開発なんてしている場合じゃないほどの地表の砂漠化。砂嵐。
「こんなことで世界が滅ぶのか?」「町も機能してるし、多少食物が取れなくなってもなんとかやっていけるんじゃないか?」とあまりピンとこない感じがしませんでしたか?実はこれには元ネタがあります。
かつてアメリカでは穀物を増やせよ肥やせよということで管理する体制を考えず畑を作っていった時代がありました。案の定、管理が不十分になり荒地になり、砂塵が舞う何万ヘクタールという大地が生まれ、周辺の街に公害をもたらすという事があったようです。
インターステラーでは何故地球があそこまで荒廃して行ったのかは語られていませんが、天災ではなく人災であったようなニュアンスは出てきます。その元ネタになったのが今書いた砂塵による公害。
日本人が地震や津波の映像を見て感じ取る恐怖感が、アメリカ人にとってはあの荒涼とした砂塵の舞う風景ということで、それが世界終末の絵に直結しているようです。なのでピンと来なくてもこういうことがアメリカであったんだなということを頭の隅に入れておくと2回目見る時や思い返すときにスムーズになると思います。
総評
素晴らしいです!!!
難しい設定も壮大さを表現する抽象さも全て問答無用で納得させて、酸素不足のような、過呼吸のような緊張感を持って、最後まで観客を引っ張って行ってくれます。今の所2014年の映画でお薦めするならこの映画かもしれません。
映画館はこういう映画を見る為に存在するんだと痛感しました。恋愛漫画の実写化とか、出版社やテレビ局が小遣い稼ぎの為にするドラマの映画化なんて家でDVDで見ればいいです。
でも宇宙の彼方まで旅をして、ブラックホールを潜り抜けて5次元の世界に行くには映画館じゃないとダメなんです。「愛は時間を、時空を超える」なんて言葉、腐るほど引用されて来て、サムい映画が出ては消えていきましたが、この映画ほどこの言葉を真剣に考えたことはなかったです。集中してみたなら見た後、「凄かった」なんて一言の感想で終わるはずはないです。鑑賞後もしばらく語り合うことができる内容です。
是非!!!本当に!!!!映画館で!!!!!!見てください!!!!!
・・・・・あ、ここまで読んだ人は多分見た後にこれ読んでるんですよね(笑)どうでしたか?インターステラー。あなたが「この映画評にはあそこがねえよ!!足りねえよ!!」って言いたい気持ちもわかりますwもしどこかで会ったらそれについて話しましょうw
年末はこれからヒューリー、ホビット、6歳の僕が大人になるまで、などなど大作、名作になっているかもしれない映画が目白押しなので、それも見たならまた映画評で会いましょう。では今年最大のSF超大作インターステラーの映画評、ここで幕引き。